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オペラについて

8月、大型の台風がもたらす大雨に列車の中に閉じ込められつつも、長崎県オペラ協会主催、錦かよ子作曲、星出豊指揮、オペラ「いのち」世界初演公演にかけつけた。「いのち」は原爆が題材の作品であり、ややもすると重たくなりがちなところを、音楽や舞台の美しさで融和させながら、「世界は丸い一つのいのち!」と世界平和を強く訴える作品であった。また翌月には、言わずと知れたワーグナーの作品であり5時間弱の大作、「ワルキューレ」がびわ湖ホールで上演され、禅問答のような緊張感のあるかけひきは、音楽を聴いているだけでも心情の変化と緊張感が伝わってきた。
皆さんの中でオペラを観た後に『なんか不自然な動きだな~』とか『じっとして歌だけ歌うのはなぜ?』といった疑問を持たれた方も多いと思う。本来なら後ろ向きに立つのが自然なのに前に向かって歌う、向き合って語るシーンでハの字作って表現する。客席に向かって声を響かせるためだが、お芝居としては『不自然な動き』に見える。また、『じっとして歌だけ歌う』のはアリアといって、心情を歌いあげる歌手の聴かせどころの場面だ。声と歌の技量を楽しむシーンなので特に動く必要はなく、逆に動かないことで心の内側で起こるドラマを強調する。このような独特な表現がオペラ様式である。私が観た二つの作品は、正統なオペラ様式にて表現(演出)されていた。日本の伝統芸能である歌舞伎にも独特の台詞回しや動きを含めた表現法があり、文化的ななじみがあるので、日本人の我々はなんとなく理解できるように思う。
歌舞伎様式を知っている人と歌舞伎様式を知らない人が同じ舞台を鑑賞した場合、歌舞伎様式を知っている人の方がより深く味わえ、より作品を楽しむことができると思うが、それはオペラにも同じことが言える。もちろん、何も知らなくても舞台や歌手の歌声等でそれなりには楽しめるけれど、知っている方が違和感なく、かえって聴きどころや観どころが分かってより深く楽しむことができる。
歌舞伎とオペラは、ほぼ同時代(1600年頃)に誕生した。歌舞伎は伝統の様式や型を守っているものが多く、一方でオペラは舞台装置などの進歩とともに少しずつ現代的な演出・手法を取り入れてきた。日本のオペラ制作家は、現代の聴衆が親しみやすい舞台にしようと様々な試みを行っているが、それには限界がきていると感じる。なぜなら、根本的にオペラは伝統的なオペラ様式に依る芸術作品だからなのだ。表現を支える様式なくして、オペラ独特の芸術性は失われてしまう。このままでは日本からオペラは無くなってしまうのではないか、私は大好きなオペラ・総合芸術の極みであるオペラを日本から無くしてはいけなと思っている。
そこで、オペラ様式で表現する作品と現代風に演ずる作品をはっきり分ける事を提案したい。現代風に演ずる作品は後ろ向きで表現する場面は前に向かなくてもいい。TVドラマのような演出を舞台で行うべきだし、オペラ様式での作品は堂々と伝統のあるオペラ様式の演出で行うべきだ。中途半端が一番よくないと考える。聴衆もオペラ様式の作品は事前に学習してから鑑賞すれば、その方がより深く作品を楽しめるだろう。
アルファあなぶきホールでは、皆様のご要望があけば、オペラを観るための講座を開催することも考えている。是非ご意見をお聞かせいただきたい。