昨年12月9日(日)に、~アート県かがわ出身の名歌手たち~「日本を代表するオペラ歌手による祝賀演奏会」を開催した。
香川県出身のオペラ歌手は多数いらっしゃるが、今回は以下の出演者でのコンサートとなった。
指揮:菊池彦典、オーケストラ:高松交響楽団。出演者:林康子、多田羅迪夫、大島洋子、小濱妙美、佐竹由美、若井健司、高橋薫子、山下牧子、谷原めぐみ、岡田昌子、藤谷佳奈枝(敬称略)。
香川県は声楽王国とも言われており、本公演に出演されなかった方も含めて数多くの声楽家を輩出している。私は現場での制作を担当させてもらったが、林康子さんとの打ち合わせが印象深く残っている。日本人で初めてミラノスカラ座でデビューを果たした歌手である。デビューがスカラ座、なんともビックリするしかない。
そんな凄い経歴を持つ林さんではあるが、とても親しみやすい朗らかな性格であり、誰をも引き付ける魅力がある。
ある日林先生からの電話が鳴った「高松のホテルにきているのだけれど予約が入っていないの」。確かに今日は高松泊まりで、誰かが予約をしているはずであった。そのホテルは満室にて宿泊不可能。その場で原因を調べても仕方ないので、兎に角お詫びを伝えそのホテルに急いで向かった。普通ならご立腹であろうはずである。それがロビーの椅子にゆったりと座り、私を見つけると笑顔で大きく手を振りながら「お久しぶりー、部屋がないの」と言ってくれたのだ。全く予想していなかった林さんの様子に驚きながら、こちらも思わず笑ってしまった。
また、ガラコンサートの曲順を決めているときのことだ、決める基準がお客様ファーストであった。この曲の後にはこの曲も持ってきた方がお客様は喜ぶわね。そう言いながら曲目の短冊を並べては動かしながら、2時間の時間をかけて曲の順番を決めたのだ。その証拠に「ボエーム」“ムゼッタのワルツ”演奏した歌手が1曲を開けてC.グノー作曲「ロメオとジュリエット」第1幕“私は夢に生きたい”を演奏することになる。「ボエームの後に雰囲気を変えて欲しいのよ、続けて歌うけど彼女なら大丈夫よね」と林さん、私は「もちろん大丈夫かと思われます」と言うしかなかった。
このおおらかな性格と音楽に対する真摯な面、ますます林さんのファンになってしまった。
林さんのリサイタルを実施したい、強く思っている。
林康子プロフィール
東かがわ市(旧大川郡)大内町出身。香川県立高松高等学校卒業。東京藝術大学卒業、同大学
院修了。1969年10月にイタリア政府の奨学生としてミラノに留学、2年後の1972年3月には『蝶々夫人』で日本人初のスカラ座デビューを果たす。その後800回以上の「蝶々夫人」タイトルロールと「ドン・ジョヴァン
ニ」ドンナ・アンナ役にて約200回の舞台に出演している。世界一の格を保つスカラ座においては、10
演目のオペラで80回の舞台を踏んでおり、このような活躍をしたオペラ歌手は世界にも少なく、日本では
林康子をおいて未だ現れていない。今のような情報世界では考えられないことだが、当時その活躍は
日本にほとんど伝わっていなかった。ヨーロッパを中心に、イタリア人と同様の美声と声量で50余のタイト
ルロール(主役)を歌うなど、国際的な大歌手と肩を並べて30年という長い期間、常に世界の第一線
で活躍してきた。ドニゼッティ、ベッリーニ、ヴェルディ等のベルカントオペラを最も得意として、古典からストラヴィンスキーまで、幅広いレパートリーを高いレベルで歌うことができる稀なオペラ歌手である。
元東京藝術大学教授。
第24回毎日芸術賞、第20回サントリー音楽賞、第10回ジロー・オペラ賞、よんでん芸術文化賞等を受賞。イタリアにおいて金の射手座賞及びオルフェオ賞など数多くの賞を受賞。
日伊音楽協会副会長。香川県文化功労者。東京藝術大学名誉教授。藤原歌劇団団員。
2006年紫綬褒章受章、2014年旭日小綬章受賞。著書「スカラ座から世界へ」。東かがわ市(旧大川郡)大内町出身。香川県立高松高等学校卒業。東京藝術大学卒業、同大学
院修了。