2014年5月17日・18日、高松サンポートホールにて、開館10周年記念事業のオペラ「扇の的」が上演される。この作品は屋島での源平の戦いを題材として、原案から台本・作曲まで今回のために制作されたものだ。
私は制作途中の1月からオペラ「扇の的」実行委員会に制作担当として参加している。それは、芸術監督であると同時に主役の那須与一役を演じる先輩、若井氏からの依頼があったからだ。かつて私は、四国二期会オペラ制作担当責任者として「夕鶴」「魔笛」「蝶々夫人」などの制作に携わった。オペラ制作には、一般的なクラシックコンサートのプロデュースとは全く違った難しさがある。なにしろ、指揮者・演出家や出演者の要求を、予算を睨みながら作りあげなくてはいけない。例えば演出家から「予算外だけど、舞台下手に一本5,000円ぐらいの木を4本置きたいけどいいかなー?」と注文されたとする。もちろん演出家の要求だし、経費的にも2万円ちょっとしかかからないので、直ぐにOKを出したいところだが、積み重なると100万円ぐらいすぐに膨れ上がるのがオペラである。舞台下手に置きたいと思う4本の木の重要性と効果を、押しせまるスケジュールを横目に、本番の舞台を頭に描きながら、これは『絶対必要なのか、他のもっと安価な代用品でも可能なのか、それとも不必要なのか』を即座に判断しなくてはならない。さらには、それを熱意あふれる演出家に説明し、なんとか納得してもらわなくてはいけない。
この一瞬の判断はとても難しいが、オペラ制作の面白さでもある。総合舞台芸術である、オペラの奥行きを理解しなくてはできない業なのだ。
これをお読みの方の中には、アルファあなぶきホールの関係者が、なぜサンポートホールのオペラ制作を…??と思われる方もいらっしゃるかも知れない。
私はアルファあなぶきホール指定管理者、穴吹エンタープライズ株式会社の社員であり、会社からお給料をいただいて生計を立てている。共に、やはり香川県民であり高松市民なのである。オペラ制作のノウハウを身をもって学び、かつ、ひそかに歴史愛好家でもある私が、「扇の的」という高松市のオペラ制作をお手伝いする機会を得て、ひと肌脱がずにおれないのは、もはや与一の矢に射られ波間へと舞い落ちる扇のように自然な流れなのだった。
実は、今回のオペラ「扇の的」実行委員会には、委員長に高松大学学長の佃先生、広報担当に一般社団法人街角で音楽を@香川代表理事の鹿庭さん、同じくROOTS BOOKS代表の小西さんといった、オペラ公演とは今まであまり関係の無かった人たちも参加している。それぞれの得意分野を生かしいい感じのハーモニーで制作は進んでいるのであるが、それも、皆さんの郷土愛が動かしているに違いないと思うのである。
さて、本番まであとわずかとなった。ご存知のように「扇の的」は見事に射られる。そこにたどりつくまでの人間ドラマを、総合芸術であるオペラの舞台を通して感じていただきたい。
世界初演オペラ「扇の的」の誕生を一緒に見守りませんか。